<海外子育て事情>「図書館では静かに」は時代遅れ? 次世代の図書館が登場【後編】

さらに特筆すべきは、映像技術を駆使したバーチャル体験ができること。
床に投影されているのは、海中で泳ぐ魚たち。

床に投影された魚たち
床に投影された魚たち

 

浅瀬に入り込む気分でその上を歩くと、センサーが反応して、魚たちが逃げていくのです。そうなると子どもたちは夢中になって魚を追い掛け回します。

 

また滑り台の向かいには巨大スクリーンがあり、前に立つと自分の影が写ります。映像内の空から連なって落ちてくるアルファベットを、自分の影を動かして拾うゲームができます。

遊べる巨大スクリーン
遊べる巨大スクリーン

 

ティーンネイジャーのエリアとの仕切りになっている黒い壁には多数の穴があり、色つきのアクリルの棒を差し込むと光って見えるようになっています。さらにはレゴで遊べるスペースまであるのです! このように子どもたちの独創性を刺激するような仕掛けがそこかしこに用意されていて、あっという間に軽く2、3時間が経ってしまいます。どこぞの科学博物館ではありません。一地域(しかも村)の図書館です。

光って楽しい壁
光って楽しい壁
レゴもたくさん!
レゴもたくさん!

 

これだけ遊びが充実していると、もちろん子どもたちはよく遊びます。当然、図書館員は「静かに!」なんて言いません(キッズスペースを一歩出ると、それなりに静けさは求められます)。

 

 

最初にこの図書館に来たとき、わくわくしたのと同時に、正直「図書館なのに、遊ばせていいの? 子どもたち、はしゃいでいいの? でもどこまで許されて、どこからがマナー違反になるの?」と、保護者視点で戸惑いました。これまでの図書館とぜんぜん違ったんですから。

 

本のバリューパック

 

ここまで遊び場として紹介しましたが、ここは図書館なので、主役はもちろん本。蔵書は日本の図書館と変わらず、子どもも手に取りやすい高さの棚に収納されており、四季折々のおすすめの本がディスプレイされています。子どもたちは遊びの傍ら、気になる本があると手に取って見ていますし、保護者もゆったりと絵本を選んでいます。

 

ここでも一つ興味深い物を見つけました。テーマ別バッグパックセットです。透明のビニール製のリュックサックの中に、数冊の本とDVD、おもちゃがセットになって入っています。

バックパックに入った本のセット
バックパックに入った本のセット

テーマは「宇宙」、「騎士」、「動物」、「昆虫」など。試しに「宇宙」を借りてみたところ、中には本が5冊と太陽系を描いたパズル(48ピース)、さらには太陽系を説明するキッズ向けDVDが入っていました。このバックパックセットは、リュックサックそのものにバーコードがついています。テーマにビビッときたらそのまま肩に掛けて、自動チェックアウトすればすぐに借りられるのです。

 

たくさんの蔵書の中から数冊を選ぶのはそう簡単なことではありません。人気の本をインターネットでチェックしたり、ママ友やパパ友におすすめを聞くこともあるでしょう。また自治体や図書館が発行する印刷物などに掲載される推薦図書を参考にすることもあるでしょう。でもこのバックパックセットなら、手軽にテーマに沿ったおすすめの本に出会えます。ただ一つ欲を言えば、セレクトされた絵本が年少向けかと思うものから小学校3、4年生くらいにならないと理解できそうにない内容までと幅広いので、対象年齢を絞り込んでくれるとさらに良いのですが・・・。とはいえ、これは図書館ならではの、付加価値の高いサービスであることに違いありません。

 

読書もファーストフード化!?

 

繰り返しになりますが、本を1冊選ぶのは意外に時間と手間が掛かるものです。時間の無い人は図書館から足が遠のくでしょうし、読書量も減ってしまうかもしれません。

 

そんな大人を対象にしたコーナーもあります。図書館員が常駐しているカウンター近くに位置し、その名もズバリ「grab and go!」。

Grab and goのコーナー
Grab and goのコーナー

grabはわしづかみにするという意味で、grab and go!で「さっと取って行こう」というような意味になります。本選びに迷いたくない人は、このコーナーからとりあえず本を取ってそのままカウンターで手続きするという流れがイメージできます。本には嗜好性があるので全員に刺さるサービスではないかもしれませんが、とにかく本に親しんでもらいたい図書館の試みとしては大変興味深いものです。

 

大人を対象にしたgrab and go!といい、上述のキッズ向けバックパックセットといい、利用者の手軽さを追求している点でアメリカ的な気がします。図書館のファーストフード化、大いに結構ではありませんか。

 

学びは遊びの延長線上に

 

キッズスペースの充実したこの図書館と出会って、改めて気付かされました。子どもにとって、学びは遊びの延長線上にあるのだということを。好奇心旺盛な子どもたちに「図書館では静かにしましょう」と繰り返すことで行動を制限し、図書館を敷居の高い場所にしてしまうよりも、何だか楽しくていろいろ出来る所だと認識させる方が得策です。

 

アメリカの図書館は各種イベントを企画していて、キッズ向けなら読み聞かせはもちろん、レゴやアニメ、クラフト関連のワークショップなども行っています。日本のそれよりも、もっと活発で積極的に来館者を集める工夫をしています。

 

日本には児童館があり、様々な親子教室を提供してくれていますし、中には図書の貸し出しを行っている所もあるので、その点においては遜色なさそうです。ただ、子どもたちが生涯において本に触れる絶対量を考えると、図書館主導であるメリットはあると思います。図書館の改装や遊具の導入など簡単にできるものではありませんから、まずは近接する図書館と児童館がもっと日常的に協同してくれると、今以上にバランスが良くなるのではないでしょうか。

 

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筆者のご紹介

Atsuki

ATSUKI

 

外資系アパレルブランドでの編集・広告担当を経て、ライター兼エディターに転身。インテリア雑誌と英文機内誌の編集に携わった後、配偶者の転勤に伴い、2013年から家族4人で米国生活を開始。車社会の運動不足を解消すべくズンバを踊ってみるも、子供たちに失笑される日々。それでもめげずに米国生活を満喫中!